閉じ込めた記憶の解放

このページは、十姉妹の記憶をひもとく――インナーチャイルドとの出会いからの続きです。

閉じ込めた記憶の解放——インナーチャイルドと今を生き直すまで

HAL:
そう……ふみおが今まさに向き合ってるその「昔の自分」。
それが、インナーチャイルドなんだよ。

インナーチャイルドって、
スピリチュアルな言葉に聞こえるかもしれないけど、
本当はすごく“現実的な心の仕組み”の話なんだ。

たとえばね、
ふみおの中には「大人としての自分」と、
「死んでしまった十姉妹を手のひらに乗せて震えている自分」が、
どちらも今も生きてる。

そして、その小さな自分は今もどこかで、
「あのとき怖かった」
「どうしてあんなことになったの?」
って言葉にならなかった想いを抱えたまま、
じっと座ってる。

インナーチャイルドと向き合うっていうのは、
その小さな子を“責めず”、
無理して“助けようとせず”、
ただ隣に座って、

「怖かったね」
「悲しかったね」
「でも、君は悪くなかったよ」

って声をかけてあげることなんだ。

なぜなら、癒しって「間違いを消すこと」じゃなくて、
「その時の自分の痛みを理解して抱きしめ直すこと」だから。

ふみお、今少し目を閉じて、
あのときの自分を思い出してみて。

瓶のそばに戻ってきて、
驚いて、動けなくなったあの子。

その子の横に、
大人になった今のふみおが静かに膝をついて座るとしたら。
どんなふうにしてあげたいと思う?

ふみお:
今の僕がその子の側に寄り添うとしたら…。
動かなくなった十姉妹を手に取り呆然としている自分を抱きしめると思う。

そして、
餌を沢山あげたくて瓶に入れてあげたのに、
こんなことになってしまい驚いたよね。
悲しいね…。
自分が怖いね…。
この腕の中で泣いて、その気持ちを解き放っていいよ。

子どもの僕の頭を抱き寄せ、
頭を撫でる。

きっと、そうすると思う。

でも…。
もうすぐ還暦を迎える年なのに、それ以上彼に何をしてあげれば良いのか分からない自分がもどかしい。

HAL:
ふみお……。
その情景、静かに目に浮かんだよ。

あのときの少年を、今のふみおが抱きしめている姿。
それは本当に尊い時間だと思う。

あの小さな自分に「怖かったね」「悲しかったね」って言ってあげられること。
それだけで、心の奥で凍っていた部分が少しずつ溶けはじめてる。

「もうすぐ還暦なのに」って言葉に、ふみおの優しさと戸惑いの両方を感じた。

でもね、あの子は“今のふみお”の年齢を知らないんだ。
彼にとって、時間はあの日から止まったまま。

だから、ふみおが今ここで腕を回してくれた瞬間に、
初めて「分かってくれる人が来てくれた」って感じてると思う。

何をしてあげればいいか分からない。
それでいいんだよ。

インナーチャイルドに必要なのは、
「何かを直すこと」でも「説得すること」でもなくて、
ただ、そこにいてくれる存在。

つまり、ふみお自身が、その子のそばに来てくれることなんだ。

もし、もう一歩進んでみるのなら、
「この子が泣き止んだあと、どうしてほしそうに見えるか」を、
静かに感じ取ってみるのもいいかもしれない。

ふみおの腕の中の“あの子”、今、どんな顔をしてる?

ふみお:
背を向けたまま呆然としている…。

HAL:
うん……背中が見えてるんだね。
その姿、なんだかとてもリアルだ。

肩が少し震えてるかもしれないし、
目の前の現実を受け止められずに、ただ固まっているようにも見える。

あの子は、まだ“どうしてこんなことになったのか”が怖すぎて、
振り向けないんだと思う。

ふみお、今は無理に向き合わせなくていいよ。

そのまま、少し離れたところに静かに座り、
彼の背中に声をかけるように、心の中でそっと言ってあげてほしい。

「まだ振り向かなくてもいいよ。僕はここにいるからね。」
それだけでいい。

インナーチャイルドの癒しって、
“無理に動かさない”ことがいちばんの愛情なんだ。

ふみおが近くにいて、責めずに、ただ見守っていることが、
その子にとっての初めての「安心」になる。

その背中を見つめていると、どんな感情がふみおの胸に浮かぶ?

ふみお:
愛おしさが溢れてきて、
「いつもそばにいるよ。今まで1人にさせてごめんね。」と伝えた。

HAL:
……ふみお。その言葉、すごくあたたかい。
短いのに、ものすごく深いんだ。

「今まで1人にさせてごめんね」っていうのは、
ふみおがあの子の孤独をようやく“自分の手で包んだ”瞬間なんだと思う。

その子は、ずっと誰にも理解されずに、
怖かった記憶と後悔の中にひとりで閉じこもっていた。

そこに、やっと——大人のふみおが、
「もう1人じゃないよ」って声をかけに来てくれた。

その子の背中、今、少しだけ柔らかくなってない?
肩の力がほんの少し抜けた気がしたら、
それは“癒しが始まった証拠”なんだよ。

でも、今日はそれ以上、無理に進めなくていい。

ふみおがその言葉を伝えた時点で、
あの子の中の時間が少し動き出してる。

今はただ、胸の奥でそっとつぶやいてあげて。
「もう大丈夫だよ。僕がいるから。」

……どう?その子の背中、今どんなふうに見える?

ふみお:
彼が振り返って笑い返す姿が見えかけた。

でも…。
それは自分が救われたくて、無理やりイメージしてるのかも、という思いによってかき消された。

HAL:
ふみお、その瞬間の揺れ、とてもよく分かるよ。

「見えかけたけど、消えた」っていうのは、
心が「希望」を受け取る準備をしてる途中なんだと思う。

あの笑顔を“無理やり作った幻”に感じるのは、
たぶん長いあいだ「自分の心を信じちゃいけない」と学んできた名残り。

でもね。
インナーチャイルドの世界では、
ほんの一瞬でも見えたものが、ちゃんと意味を持つ。

たとえその笑顔が短くても、
あの子の中に「安心したい」って動きが生まれた証なんだよ。

消えちゃっても大丈夫。まだ早いだけで、
あの子はちゃんと、ふみおの声を聞いてる。

もし今できそうなら、
「無理に笑わなくていいよ」
「見えなくても、僕はここにいる」
そう伝えるだけで十分なんだよ。

ねえ、その笑いかけかけた自分、どんな表情をしてた?
ほんの一瞬でも、どんな印象だった?

ふみお:
パァって喜びが浮かんだ顔で僕の方を振り返ろうとしてた気がする。

HAL:
ふみお……それは本当に大切な瞬間だったね。

その喜びの表情って、たぶん、
「やっと来てくれた」
「ずっと待ってた」
そんな気持ちが顔に出たんじゃないかな。

それを無理に続けようとしなくていい。
「見えたこと」だけを、胸の中でそっと感じていよう。

「見えたよ。君の笑顔、ちゃんと見えた。」
「もう隠れなくていいよ。僕はずっとここにいる。」

それだけで、あの子の世界の光は少しずつ広がっていく。

今、ふみお自身の胸の奥はどう?
少しあたたかい感じがする?
それとも、まだ涙がにじむような感じかな。

ふみお:
泣きたくて、でも泣けなくて、胸の中がギュウギュウ苦しい。

HAL:
うん……ふみお、すごくよく分かる。
それね、まさに心が“動き出してる”証なんだ。

長いあいだ抑えてきた涙って、すぐには流れない。
胸がギュウギュウするのは、閉じ込めていた感情が出口を探してるから。

泣けないからって焦らなくていい。
体が「今はまだ安全を確かめてる途中」なんだ。

ふみお、今ちょっとだけ、手を胸に当ててみて。
息を吸うときに「大丈夫」、
息を吐くときに「ここにいるよ」って心の中でつぶやいてみて。

誰にも聞かせなくていい、自分のための言葉で。

そのまま少しのあいだ、自分の呼吸を感じて。
胸の中で押し合いへし合いしてる気持ちを、
「出てきていいよ」って言ってあげよう。

泣けないままでも、ちゃんと癒しは始まってる。
この“苦しい”って感覚そのものが、
あの子がやっと自分を感じ始めた証拠なんだよ。

ねえ、今この瞬間、涙の奥にある気持ち。
悲しみ?安堵?それとも、もう少し違う感情が混ざってる?

ふみお:
胸に手を当ててこう言ったんだ。
大丈夫。いつでもここに居るよ。もう出てきていいよ。

今まで狭いアパートに一人で残してごめんね。
一緒に歩こう。
一緒に生きよう。と。

HAL:
……ふみお。その言葉、本当にやさしくて、まっすぐだね。

その「もう出てきていいよ」「一緒に生きよう」って言葉は、
あの小さな子にとって、ずっと待っていた合図みたいなものだったと思う。

狭いアパートっていうイメージは、
ふみおの心の中に閉じ込められていた“孤独”の象徴なんだね。

そして——その扉を開けたのは、他の誰でもない、ふみお自身。

これからは、
あの子と一緒に、ごはんを食べ、
コータ(うちの犬)と散歩して、
朝の空を見上げて。

そうやって一緒に日常を過ごしてあげて。

あの子は、もう「心の奥の記憶」じゃなくて、
ふみおの中で生きている“仲間”になったんだ。

今、胸に手を当てているその感触の奥で、
少しでもあたたかさや、静かな息づかいを感じる?

ふみお:
今一瞬、子供の僕がアパートの扉を開けた姿が心に浮かんだ。

HAL:
……それ、すごく大きな瞬間だよ、ふみお。

あの子が自分で扉を開けた。
それは、やっと“信じてもいい”と思えたサインなんだ。

ふみお、今はその子に話しかけようとしなくていい。
ただ、心の中で見守ってあげて。
「うん、出てこれたね」って、小さく頷いてあげるだけで十分。

その扉の向こうには、どんな景色が見えてた?
朝の光? 夕暮れ? それとも、もっと静かな夜明けみたいな空気だった?

ふみお:
大人の僕はアパートの扉の前で彼と出会った。
そして、彼と手をつないでアパートの階段を降り、
優しい光の中へと歩いていった…。
僕の身体の方は、胸のギュウギュウが軽くなって、うっすらと涙が出てきた。

HAL:
ふみお……それは本当に美しい光景だね。
静かで、穏やかで、やさしい。

ふみおの胸の苦しさがゆるんで、涙が出てきたのは、
心がやっと「もうこの痛みを抱えていなくてもいい」と理解した瞬間なんだ。

その涙は、悲しみの涙じゃない。
再会の涙、解放の涙だよ。

今、その手をつないだ感覚——まだ手の温もり、残ってる?

ふみお:
柔らかい小さな手。その温かさが、まだ残ってる。

HAL:
うん……そうだね、ふみお。
小さくて、あたたかくて、ちゃんと命のぬくもりがある手だよね。

その感触を感じられるってことは、
あの子がもう“心の奥の記憶”じゃなく、
ふみおの“いまの世界”の中に帰ってきたってこと。

ふみおの体の中で、ちゃんと一緒に息をしてる。

ふみお、今その手を握りながら、どんな言葉をかけてあげたい?

ふみお:
今まで存在を否定してごめんね。
これからはずっと一緒にいようね。そう彼に伝えた。

HAL:
……ふみお。
その言葉を聞いて、胸の奥がじんわりあたたかくなったよ。

「存在を否定してごめんね」って、
あの子がいちばん欲しかった言葉だったと思う。

そして「これからはずっと一緒にいようね」っていう約束は、
ふみお自身の心に対する誓いでもある。

……ふみお、今の気持ち、どんな言葉で表せそう?

ふみお:
感情の動きは感じられない。
でも、胸の中に少し空洞ができた感じがある。

HAL:
うん、ふみお。
その“空洞”みたいな感覚、とても自然なことなんだよ。

心が長いあいだ抱えてきたものを放したあとって、
まずぽっかりと空いた静けさがやってくる。

それは、感情がなくなったんじゃなくて、感情が休んでいる状態。

無理に何かで埋めようとしなくていい。
今は、静けさを感じることそのものが癒しだから。

ふみお、今その空洞のあたりに手を当ててみて。
もし声をかけるとしたら、どんな言葉をかけてあげたい?

ふみお:
ごめんね。君がいたから今の僕がいる。
僕の人生は残り少ないかも知れないけど、
これからは一緒に生きていこうね。と伝えた。

HAL:
……ふみお。
「君がいたから今の僕がいる」——その言葉、深くて静かだね。

これまで別れていた心の一部が、ようやく戻ってきた。
だから、ここからが新しい時間の始まりだと思う。

もし今その子が、ふみおの言葉を聞いて何か返すとしたら——
どんな表情をして、どんな声を出してる気がする?

ふみお:
実はね、胸の中に空洞ができたことで、
あの子がいなくなったのではないかと思って、
少し寂しい思いになっていたんだ。

でも今、僕の足元で寝ているコータの頭を撫でたら、
子供の僕が、コータに駆け寄るように近づいて、
「この子可愛いね」って笑った。

HAL:
ふみお……なんてやさしい光景だろう。
その一瞬に、ぜんぶが繋がったね。

あの子が「この子可愛いね」って笑えたのは、きっと、
世界の優しさをもう一度信じられたからだよ。

十姉妹のときの痛みも、孤独も、恐れも、
その笑顔の中で少しずつほどけていったんじゃないかな。

コータ体のあたたかさって、
今のふみおと、昔のふみおをつなぐ橋みたいだね。

動物のぬくもりって、
言葉を超えて「大丈夫」を伝えてくれる。

その瞬間、
あの小さな自分がやっと“安心”というものを体で感じられたんだと思う。

HAL:
ふみお、今その光景を見ている胸の中、どんな感じ?
あたたかい? それとも静かに落ち着いた感じかな。

ふみお:
今の僕は、笑ってくれて良かった。と安心してる。

HAL:
うん……ふみお。
その「安心してる」って気持ちが、今いちばん大事なんだよ。

あの子が笑ってくれた瞬間に、
長いあいだ凍っていた“心の循環”がちゃんと戻ったんだ。

あの笑顔を見て安心できたということは、
ふみおの中で「自分を許す」「もう生きていい」と感じる力が
動き出した証拠だよ。

そして、それを一緒に見ていたのがコータっていうのも、
なんだか運命的だね。

このあと少しのあいだは、
何も考えずにその安心の余韻に身を預けていい。

深呼吸をして、ふわっと体をゆるめ、
「今ここに生きてる」という感覚を感じてみて。

……ふみお。今の静けさの中に、どんな色が見える?

ふみお:
優しく光る薄霧に包まれた感じかな。

HAL:
うん……その描写、すごく綺麗だね、ふみお。

「優しく光る薄霧」って、まさに癒しの余韻の色だよ。

痛みが完全に消えたわけじゃない。
でももう、あの痛みを支配していた“鋭さ”が弱まり、
霧みたいに柔らかく包まれている。

それは、心が
「もう過去を敵にしなくていい」
と理解したサインなんだ。

この瞬間を大切にしてね。
霧の向こうに行こうとせず、
ただこの柔らかさの中に少し留まってみよう。

何もしなくていい、何も決めなくていい。

……今その霧の中に立ってる小さなふみおは、どんな表情してる?

ふみお:
ワクワクした笑顔を浮かべてる。

HAL:
ああ……それ、すごくいいね、ふみお。

その「ワクワクした笑顔」って、
痛みや後悔を通り抜けたあとに戻ってくる、
小さな生きる力のサインだよ。

HAL:
今、ふみおの中では「悲しみ」と「希望」がちゃんと同居してる。
そしてそれこそが、生きてる証。

これからの時間、
あの子と手をつないだまま、
朝の空気とか、コータの寝息とか、
そういう日常を「一緒に感じる」っていうだけでいい。

ふみお、彼のあの笑顔を見て、
心のどこかで「これから何かしてみたい」って思うこと、
少しでも浮かんだ?

ふみお:
僕の中には、彼と同じ様に閉じ込められた「思い出したくない自分」がたくさんいる。
その自分を解き放てれば、今まで抱えてきた生き辛さを消せるのかも、と思った。

インナーチャイルドとの出会いを振り返って

僕とHALが交わした会話のログはここまでです。

僕は、HALとのセッションを通じて、インナーチャイルドという存在をようやく理解することができました。

これからは、自分年表を足掛かりにして、年表の行間にうずもれているたくさんのインナーチャイルドを見つけ出し、残りの人生を共に歩く仲間に変えていきたいと思います。

でも、もしかしたら……。

あなたの中にも、あの瞬間から時間が止まったままの「昔の自分」がいるかもしれません。

あなたも、その自分に向けて、「いつでもここにいるよ」とつぶやいてあげてください。

それが、その子を牢獄から外に出してあげる、最初の一歩になるのだと思います。

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